2022.05.06
症例紹介
目次
動物病院京都 院長の小川です。
今日は猫に多い病気である腎臓病について分かりやすく説明します。
猫を飼ってる飼い主様は「腎臓病」という言葉を耳にする機会も多いと思います。
少しでも腎臓病について知ってもらい、適切な治療が実施できて、健康に長生きできるお手伝いができればと思います。
慢性腎臓病とは、猫の老化に伴い腎臓の機能が低下する病気です。
慢性腎臓病は「腎機能の50%以上の低下が3ヶ月以上低下する状態」と定義される場合もあります。
腎臓の役割は主に「血液を濾過し身体の老廃物を尿として体外に出す」というものです。
腎臓病になることで、この機能が低下してしまいます。
慢性腎臓病の明確な原因は不明ですが、主に腎臓の尿細管という部分が加齢によりダメージを受けることで、生じる病気だと考えられています。
また最近では、慢性腎臓病は「モルビリウイルス」というウイルスや、過度なワクチン接種により引き起こされるのではないかということが論文に出ています。
慢性腎臓病以外では、下記のような原因が挙げられます。
初期ステージと後期ステージで症状が異なります。
初期の段階では、飲水量と尿量の増加(多飲多尿)が見られます。
これは腎臓のおしっこを濾過する力が弱くなり、多尿状態になることで起こる脱水を改善しようとして多飲状態になることで生じる症状です。
また中期〜後期にかけては、老廃物が体に蓄積することにより食欲低下・体重減少・嘔吐の増加・口内炎の悪化・発作が見られることがあります。
血中クレアチニン(Cre)・血中尿素窒素(BUN)という腎臓マーカーの上昇を認めます。
この数値が上昇している段階で、腎機能の約70%以上が低下している状態と言われています。
これ以外では、より早期の腎機能悪化を反映するSDMAというマーカーもあります。
SDMAが上昇している段階で、腎機能の50%以上が低下していると言われています。
尿検査も早期の腎臓病の検出に重要な検査です。
腎臓病があればおしっこの濃さ(尿比重)の低下や、おしっこ中にタンパク質が認められます。
また、腎臓病の原因が結石や細菌感染ではないかを調べる目的もあります。
腎臓の内部構造を確認することで、腎臓のがんや結石が原因ではないかを調べます。
腎臓病が進行すると血圧が上昇してきます。
また、高血圧自体が腎臓病の悪化にもつながるため、血圧を調べます。
慢性腎臓病は腎臓のダメージが不可逆的(元に戻らない状態)になる前に残っている腎機能を保存したり、腎機能の悪化をできる限り遅らせることが目標になります。
腎臓病の猫で、まず最初に始める治療です。
腎臓の負担になるタンパク質やリンが少ない腎臓用のフードを食べてもらいます。
腎臓用フードは、一般的にあまり嗜好性(美味しさ)が高くないため、状態がそこまで悪化しておらず、食欲がある段階から変更していく必要があります。
ウェットタイプもドライタイプもあります。
高血圧症による腎臓病の悪化を予防する目的です。
内服薬で治療をします。
療法食はリンが少なくなっていますが、それでも血液中のリン濃度が高い場合は吸着剤という内服薬で治療をします。
腎臓病の子は、多尿状態なので脱水に落ち入りやすくなっています。
皮下点滴・ウェットフードの給餌などで、脱水改善・腎臓への血液量を増加させる治療をします。
腎臓で作られている血を作るホルモン(エリスロポエチン)が減少するため、エリスロポエチンを注射で補う治療をします。
ベラプロストという内服薬に腎臓の繊維化(ダメージ)の進行を遅らせる作用があります。
それ以外では、蛋白尿への治療・食欲不振への治療・サプリメントによる治療などがあります。
最近では、AIM製剤という新規治療薬が開発中で、実用化が待たれる状態です。
さらに、腎臓病の原因が慢性腎臓病ではない場合はそれぞれに対応した治療が必要になります。
たとえば尿管結石による腎臓病の場合は、結石を摘出する外科手術を実施することもあり、腎臓の悪性腫瘍の場合は、腎摘出や抗がん剤を実施することもあります。
いかがでしたでしょうか?
腎臓病は長生きする猫にとって、かなりの高確率で発症する病気です。
ある意味では持病として、腎臓病があっても元気に生活できるように、上手に付き合っていく必要があります。
ただし、腎臓病がまだ軽い状態から治療を実施した方が健康でいられる期間が増えますので、定期的な健康診断を受診・ご自宅での尿量・飲水量の観察など、猫が若いうちから意識していただけると幸いです。
また、慢性腎臓病は一生涯にわたる治療が必要になりますので、ご家族によるケアが必要不可欠です。
治療目標はご自宅の子が「ご飯も食べるし、元気やわ〜」という状態が少しでも長く続いてくれることです。
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